── 調査開始3ヵ月後 ──


  written by wanko  












前回の報告より、随分と時間が開いてしまった。あまりにも早くから準備を開始してしまった為、彼女達の作業は、いわゆる、中だるみという状況に陥ってしまったようである。しかし、本腰を入れないと、そろそろまずいであろう。私は状況を探る為、渋谷の片隅に店を構えていた。本日の私の扮装は、全身黒尽くめの老婆風。特殊メイクにより、顔には深い皺が刻まれている。構えた店の傍らには、「水晶占い 聖婆」の看板。

(よし、来ましたね)

目の前にターゲットが現れた。

「もし!!もし!!そこのお方」

私は、暗い顔をして、店の前を通り過ぎようとした女性に声を掛ける。

「え、私ですか?」

彼女は立ち止まり、怯えた小動物のような瞳でこちらを見た。

「えぇ、あなたです。何かお困りのことというか…、お悩みがあるのではありませんか?」

「わかりますかっ!!!!!」

と言うなり、凄い勢いで縋りついてきた彼女を落ち着かせるように、私はにっこりと微笑む。(本日は老婆風の為、「いいね、白い歯、さわやかだよ」にはならないのが残念)

「よければ、この婆に相談してはみませぬか?心が少しは軽くなるやもしれませぬぞ」

「お婆さん、聞いてくれますか?私、今、とっても、とっても、追い詰められてるんです!」

「どうぞ、座ってゆっくりとお話しなされ」

「ありがとうございます。…実は、お友達と一緒にある企画に参加してるんですけど、それ自体はとっても楽しいことなんですけど、でも、でも、すっごく大変なんですよぉ」

「ほほう。何がどのように大変なのじゃ?」

「えと、これ見てください。この曲名をお題にしてあるお話を書くんですけど、そのネタが全然落ちてきてくれないんです」

(ん、これはコンサートのプログラム!ふむ、楽曲は全て決まっていたのですね)

私は、水晶形の盗撮カメラで、そのプログラムを気づかれぬように写し取った。なるほど、調査初日に入手した5つの単語はここからきていたという訳か…等と納得しながらも、目の前で震える彼女に話しかける。

「お話…それはいつまでに書かねばならんのかね?」

「えと、えと、これは、一応、サイトがクローズになるまでだから、最悪、10月にずれ込んでも大丈夫なハズ…」

「では、まだ、随分、時間があるではありませぬか」

「でも、でも、この他にもコンサートに来てくれた人にお土産として渡す本にも、別のお話を書かなくちゃいけなくて、それは、9月の中旬位が締め切りなんです。あぁ、なんで、私、お土産本まで参加するなんて言っちゃったんだろ。あっちは有志の参加でよかったのにぃ…。もう、皆はネタもあって書き始めてるって言うのにぃ…。やっぱ無理、絶対無理だ!」

(お土産本まで作成するのですか。これは又、真澄様もお喜びになられることでしょう)

「大丈夫です。何も心配することはありませぬぞ。私の水晶には、あなたがどちらの作品も無事完成して、小躍りしている姿が映し出されております」

「本当ですか?」

疑いの眼でみる彼女に水晶を覗きこませてみる。

「あっ!本当だ!なんか、兎みたいなのが、ピョンピョン飛び跳ねてる!」

(勿論、事前に仕込んだネタである。)

大きく頷きながら、私は言った。

「チビちゃん、君ならたとえ1%の可能性であっても実現させることができるだろう」

「え?可能性って、1%しかないんですか(ほとんど涙声)?」

「あ、いや、それは言葉の綾というか、なんというか…(しどろもどろ)。とにかく、この婆を信用しなされ!!」

「わかりました。あたし頑張ります。紫の水晶の人!どちらのお話もきっと書いてみせます。その水晶で私のことをずっと見ていてくださいね」

右手を掴まれ、ブンブンと握手をされる私。その後、ピョンピョンと飛び跳ねるように彼女は帰っていった。
ふうぅ…、しかし、何故、あの会話からやる気になってくれたのか…よくわかりませんが、疑うことを知らない、素直な性格で良かった。1%の可能性をなんとかモノにして欲しいものである。


† 本日の報告メール †

「コンサート参加者にはお土産本もあることが判明。また、コンサート楽曲も決定し、各自、作品製作に入っております。一部メンバーに遅れが発生している模様。引き続き、調査続行致します。 6月XX日 聖






08.10.2005



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