![]() written by 咲蘭 epilogue : 秋晴れ |
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秋風がスカートをふわりと揺らし、キャメルスエードのロングブーツがプラタナスの並木道を真っ直ぐに前に向かって歩く。聴講生は、学生のいる場所まで来ると、一旦立ち止まりにっこりと笑うと、差し出された右手を指で弾き、またひとりで歩き出す。学生は、弾かれた右手に呆れた笑顔を見せ、それから聴講生を追いかけ、二人でじゃれ合いながら並木道の向こうに消えていく。 「カ───ット!!」 「OK!!」 「ありがとうございます!これにて全ての撮影が終了いたしました!!どうも、お疲れさまでしたーっ!」 スタッフの声と、一斉に湧き上がる拍手が秋の空に吸い込まれていく。気持ちいい。マヤは、学生役の俳優やスタッフ達と握手を次々と交わし、最後に大きな花束を受け取りクランクアップを迎えた。 真澄とのことをやっと自分の中で言葉にできるようになった頃、沙耶にも打ち明けたが、沙耶はマヤが思うほど驚かず、ただ妙に納得したような腑に落ちたような風情で右手を頬に当てて、「ふ〜〜ん…。そっかぁ…。なるほどねぇ」と言って、ふわりと笑ったのだった。 花束を抱えて、沙耶と一緒に車に向かう。今日これで仕事は終わり、青空の見えている時間に放免される予定だ。しかも明日もオフになっている。最高だ。 「そしたらね、おれの誕生日は11月3日で昨日だけど、生まれたのは23時を過ぎてからだから、おれの誕生を一番最初に祝福してくれた太陽は4日の朝日なんだよ、なんて言うんです。遅れてきた言い訳にしては出来過ぎてて、つい4日の朝日を見ながら二人して笑ちゃったんですけどね」 「さすが社長ね。どんな状況だろうが交渉相手を満足させて納得させちゃうんだから」 「あ、いや、交渉相手っていうか…」 「朝日を一緒にね…。あの、社長がねぇ…」 「あ、あの、いや…べつにっそのっ……!!」 みるみる首まで赤く染めて手をぶんぶんと振って何かを否定するマヤに、沙耶はマヤの頭をくしゃくしゃにして目を細めた。 「マヤちゃんて、仕事に対しては全く心配ないんだけど、それ以外の部分が頼りないというか、掴みきれないというか、ちょっと気になってたの。でもそんな想いをひとりで抱えてたんだね。…よくがんばったね」 「…うん」 「で、これからどうするの?」 「ん…。とりあえず、一緒にいれたらいいな…なんて思ってるんだけど、先のことはよく分からない…。でも、今はそれでいいかなって」 真面目な顔で柔らかく語るマヤは、ずっと頑なに覆っていた見えない鎧が消えたようで、とても穏やかで少し大人になったみたいと沙耶は思う。 「そうじゃなくて。今日はこれから、数日遅れの誕生祝いしてあげるって約束してるんでしょってこと。私はどこまであなたを送ればいいのかな?」 「あ…」 さらに真っ赤になって下を向くマヤは最高に可愛くて、もっとからかいたくなってしまう。 「この子をからかうのはそのぐらいにしてやってくれ」 プラタナスの落ち葉を踏みしめながら、突然現れた真澄の姿に、沙耶はそのまま固まり、マヤは一歩後ずさる。 「しゃ…社長自らお迎えでしたか」 「ああ、今日はマヤが食事に誘ってくれているんでね。もう、姫を連れ去っても構わないかな?」 「あ、もちろんです。今日の仕事の予定は終了です」 それにしても、と沙耶は思う。それにしても、あの大都芸能の速水社長がこうも穏やかに優しげな眼差しをする人だったとは、と。 「それで…。どうして逃げ腰なんだ、マヤ」 「あ、や、なんか、その、慣れないなぁ…と思って。速水さんが、こんな風に迎えにきてくれるなんて…。だって、突然現れるときは、だいたいなんかきっついこと言われて、口げんかになってたし、つい」 真澄と沙耶が同時に吹き出す。 「なんで二人とも笑うのっ!ホントに慣れないんだもん!!」 要は照れているだけではないか。沙耶は、どこか入り込めなく、また表にも出されなかったマヤの本音の部分が、今は素直に目にすることができることを心から嬉しく思う。 「それなら慣れるまで毎日迎えにきてやろうか?」 「そんなの速水さんの方こそ、むちゃくちゃ忙しいくせして無理に決まってるもん!」 「なんならお姫様抱っこでもしてやろうか?」 「そんなの恥ずかしすぎますっ!」 言い争いしながら二人で一緒に真澄の車に向かって歩いていく。 沙耶さんに挨拶してないよとマヤが振り向くと、既に沙耶はそこには居らず、どうやら二人の相手をするのは早々に止めて自分の車に行ったらしい。沙耶の車に目をやると、運転席から二人に笑顔で手を振り、走り去って行く姿が見えた。 鮮やか…とマヤは呟き、振り返る。 そこには、風に吹かれて空を見上げる真澄がいる。 空は抜けるような青空で、白い雲がまるで風のようだ。秋の風は少し冷たくて、透き通っている気がする。真澄の前髪が風に吹かれて揺れる。きれいだな、とマヤは思う。空も、風も、真澄も。 「ひさしぶりに青空を見上げた気がするな」 「うん」 「こんな秋晴れの日に、ガーデンパーティで披露宴もいいかもな」 「え?」 「いつか、そういうのはどうだ?」 「…!」 真澄は、目を丸くして自分を見上げ、声も出せないでいるマヤに素早く触れるだけのキスを落とすと、マヤの手を繋いで楽しげな声で笑い、さっさと前に向かって歩き出す。 どうにもならないことはある。 だから、逃げ出したいこともある。 身動きができないことだってある。 だけど、 降り止まない雨はない。 どんなに酷い雨でも、永遠に続くような雨でも いつか、雨が止む日がくる。 雨ふりのあとで、空を見上げれば、 きっとそこには吸い込まれそうな青空があって、 となりには、一緒に歩いていきたい人がいる。 10.30.2005 01.22.2006(転載) どこか弱さを抱えているマヤやマス、シオリ。弱さゆえに永遠に続くかと思われる行き止まりな状況から、青空を臨むまで。そういう人間模様が書けたらいいな〜という漠然とした思いから書き始めました。 おめでとう、マス。 今年もアナタのお誕生日をお祝いすることができました。 来年…はわからないけれど、でも、こんなお祝いを催したってことは、私の中では一生忘れられない出来事です。 こういう機会を与えてくれたアナタに感謝します。 |
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