おそく起きた朝は

















trururururu……


「…はい…、北島です…」

「あ…、マヤちゃん?おはよう。水城です」

「…水城さん?」


目蓋の向こうに白い光。もう、朝か。
水城さんがこんな朝から何の用だろう……。


「起こしちゃったかしら?ごめんなさいね」

「…いえ…、どうしました…?」


朦朧としたまま薄目を開けて壁掛け時計に目を遣る。
…もう10時20分か…。
会社勤めの人はとっくに仕事始めてるよね…。
ゆっくりと起きあがりベッドに座る。


「あのねマヤちゃん、つかぬ事を聞くけれど、最近…というか昨日、うちの社長に会ったかしら?」

「…へ…速水さん?」


はっとして隣を見る。
白いシーツに絡まるように眠る長身の男性。
一気に眠気が飛び、慌てて露わになっている自分の体にシーツを巻き付ける。


「なっなんであたしが速水さんに会うんですか?ありえませんよ、会ってませんよっ。ほっ…ほら一週間ぐらい前に大都芸能の廊下ですれ違ったでしょ?水城さんも速水さんと一緒にいて。あれが最後ですっ」

「…そう」

「……あの……、なにかあったんですか……?」

「何か…?そうね、無断欠勤なのよ」

「無断。…欠勤」


横目で隣を見る。
罪のない寝顔で確かに欠勤している。

ふいに、
眠っているはずの腕が伸びて、長い指がマヤの背筋をなぞり始める。


「ひゃっ!」

「…どうかした?マヤちゃん」

「い…いえ!」


思いっきり睨み付けても、起きて活動しているのは右手だけで、相変わらず顔は無表情のまま眠っている…ように見える。


「お屋敷にも昨日はお戻りじゃないようだし、プライベートマンションも電話が繋がらないし、携帯電話も電源が切られているのよね」

「はあ」

「マヤちゃん…。ちなみに今日はオフ日?」

「え?…ええ、はい」


払いのけても、わざと面白がるように右手の活動は継続される。腰から背筋を登り首に達し、マヤの左耳を擽っている。


「ふぇっっ…ごっごほっごほっっ!!」

「まあ、風邪?」

「いっいえっ!大丈夫ですっ!」

「まあ…いいわ。マヤちゃん、もしも…もしもでいいわ。社長に会ったら伝えておいてくれる?今日の会議も会食も私がなんとか調整しますって。ですが、この貸しは必ず給料に反映させていただきますからねって」

「は…はい」

「ああ、それから、オフ日のたびに無断欠勤は困りますって」

「えっ?」

「それでは、お邪魔しました。またね、マヤちゃん」


pi…ツーツーツーツー……


マヤは通話の断たれた子機を握りしめながら呆然とする。

「おじゃましましたって……」

くっくっくっく…

隣からは可笑しそうに笑いをこらえる声。

「しかし、君は相変わらず舞台を降りると大根役者だな」

「なっっ…、だっだって、突然だったしっ!それに速水さんがイタズラするからっ!」

シーツを一気に引っ張られバランスを崩して真澄の上に倒れ込む。

「きゃっっ!」

「朝から、そんな悩ましい姿で俺以外の人間と電話なんてしているからだ」

「ええっだって、相手は水城さんですよ!?」

「知ってるよ。無断欠勤なんだって?彼女のボスは」

笑いながら形勢を逆転してマヤを両腕で抑えこむ。

「ちょっ…、水城さん怒ってましたよ。今日の調整分は給料に反映させていただきますって」

「望むところだ。君と今日一日、一緒にいられるのならいくらでも支払うよ」


真澄は不敵な笑みを見せ、自分で組み敷いている恋人の姿を楽しむ。
黒髪が白いシーツに解き放たれ、白い首筋や胸元に、夕べの名残の紅い花びらの痕。真澄は、まだ刻印されていない場所へ唇を這わせ、さらに花びらを散らす。


「あぁっ…だめですよぅ。もう朝なんだから…」

「かまわない…」

「ん…んもぉ〜…、…ねぇ、水城さんって、まだ知らないんでしょう…?」

「くっくっく…さあな、わが秘書殿は俺よりも正確に事態を把握する人間だからな。君と俺が仲良く朝寝坊する仲だってことは、言わなくても知っているんじゃないか?電話があったのが何よりの証拠だろ」

真澄が顔を上げてさも愉快そうに笑う。マヤの髪をくしゃくしゃに撫でる。

「やん…、でね、オフ日のたびに無断欠勤は困りますって。ねえ、あたし今度あったら怒られちゃうかな?」

本気で不安気な顔をする恋人を、真澄はさらに苛めたくなる。

「彼女の怒りは俺が一手に引き受けた。安心しろ」

「でも」

「もう、いいから…」

なおも続ける恋人の耳元で小さく囁き、強引に唇で唇を塞いでしまう。右手の長い指を耳の後ろに差し入れ、左手で腰を引き寄せる。結局、彼女も抵抗する仕草は見せず、彼の思惑通り事が進んでいく。


恋人同士の遅い朝は、このままずっと…









fin




07.10.2004






あとがき




会社からの帰りの電車でふと思いついて、構想時間20分、執筆時間1時間というバカみたいなお話です。あまりの暑さに頭の中もおかしくなっていると思われます。起承転結などありもしない話で(いつも無いが)、単にイチャイチャしている二人が書きたかったモヨウ。ただそれだけなんです。どうもすいません。
で、最後ブチっと切れておるようだが、
これで終わりかい?これで終わりかい?
そりゃ、sceneには地下はございませんのでね…フッ(*´ー`)

ハートを思わずクリックしたお方…。
だから、sceneには地下は無いんだってば。
地下は無いけどね…(笑)







fiction menu