言葉のかわりに

  illustrated and written by 咲蘭  



たとえば、あたしが小説家だったら
煌めくような言葉を連ねた素敵な恋愛小説で
どのくらい速水さんが好きなのか表現できるかもしれない。


たとえば、あたしが歌手だったら
心打つ歌詞を伸びやかな歌声で唄って
どんなにか速水さんを大事に想っているか伝えられるかも。


でも、あたしは女優で、
もちろん、好きの気持ちを演じるときは、
速水さんを想う気持ちを引き出して演じるけれど
残念ながら速水さんは舞台の上にはいないから
舞台の上で愛を語ることは、それはやっぱり演技になるし。
それに、そのとき傍にいるのは速水さんじゃない誰かだし。


つまり、とても重大なことは、
なんの取り柄も無い、ただの北島マヤが
演技ではなく、とても素直な自分が、
速水さんを心から好きで好きで堪らないと想っているということ。


ただの北島マヤは、速水さんをこんなに好きな気持ちを
うまく言葉にできない。
好きを伝えられないと、好きがどんどん膨らんでいって
心がパンクしそうになって、痛いほど苦しくなるんだよ。
こんな気持ちは知らなかった。


「何をそんなにふくれてるんだ?おれのチビちゃんは」


ちがうもん。
怒っているんじゃないんだもの。
パンクしそうなだけなんだもの。
毎日、ずっとずっと、好き好き好きって
ばかみたいに気が済むまで言ってられたらいいのに。
だけどね、そんなに簡単に言えないし、上手に言えないし。
だから。勝手に拗ねてるだけなの。


「怒っている理由は言ってくれなきゃわからないだろが」


怒らないで、ね。もう少し待って。


じゃあ…。じゃあ、こういうのはどうかな。
言葉のかわりにキスを贈るのはどうかな。
たとえば、あたしが大好きな大きな手に。長い指に。
あたしの好きが、速水さんに
いっぱいいっぱい伝わりますようにって。


chu…


「……おれもだよ」


え……?


「おれも、きみが好きでたまらないよ」


見上げた先の速水さんは、
恋をしている瞳で照れたように小さく笑う。


そっか…。
言葉じゃなくても、
好きはちゃんと伝わるんだね。
でもね、好きが伝わると、もっともっと好きになって
パンクしそうだった心が
どこまでも大きく広がっていくってわかった。
どこまでも、いつまでも、速水さんを好きでいられるみたい。


速水さんも、そう?


そうだったら、とても幸せ。








10.31.2005
12.12.2005 (scene転載)





† あとがき †

このふたりが大好きで、幸せになってほしい。
そんな気持ちを言葉のかわりにイラストで。

「速水さん」と「チビちゃん」という呼び方がとても好きです。 「あたし、もうチビちゃんじゃありませんっ!」っつう名ゼリフも好きですが、でも、恋人同士になっても、ずっとこの呼び方を続けてほしいなぁと思っているのです。(Träumerei掲載時あとがき)

…というわけで、これは2005年の速水さんのお誕生日企画Träumereiで発表した作品でした。ひさびさのお絵描きだったので、初心に戻って原作を見ながら描いてみたのですが、結局のところ自分の好みがやっぱり大幅に投入されてしまうのでした(^^;)。
はあ、もっと上手になりたいな〜〜〜(←だったら練習しろよな〜)

† Träumerei †の作品制作秘話(?)レポはこちら から


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