あたしはあなたのこんなところが好き














あたしはあなたのこんなところが好き。



朝、眠そうな顔でいつまでもごろごろしているところ。
声をかけると、薄目をあけて微笑むところ。
抱き寄せて、二度寝の誘惑をするところ。(誘惑されないけどね)
高い鼻をつまむと、うるさそうに払いのけるところ。
時間を教えてあげると、慌てて起きあがるところ。



ほら、遅刻しちゃうよ。
速水さんって、朝、こんなに弱いと思わなかった。

ちがうだろ。
きみがいつまでも眠らせてくれないからだ。

(///)!!!
ちがうじゃんっ!!
眠らせてくれないのは、速水さんでしょッ!!!



なんて、笑いながらシャワーを浴びにいくところ。
お風呂場から出てくると、なんとなくお湯の香りのするところ。
お湯の香りを漂わせながら、キスしてくれるところ。
前髪にまだ滴が残っているところ。
新聞に目を通しながら、コーヒーをのむところ。
それが、すごく様になっているところ。


着替えながら、だんだんと会社仕様の顔になっていくところ。
ネクタイを結ぶ指がきれいなところ。
寂しくなって、あたしがまとわりついても許してくれるところ。
忙しい朝なのに、速水さんに会社に行ってほしくなくて、
つい、くだらないお話をしたとしても、
ちゃんと最後まで耳を傾けてくれるところ。




どうしてこんなに挿絵




だから、つい「好き」なんて、言っちゃうよ。
それで、笑ってキスしてくれるところも、好き。



でもね。

ちゃんと野菜も食べなさい、とか
使った物は、使い終わったらきちんとしまいなさい、とか
コップは溜め込まないで、その度に洗いなさい、とか
ソファで寝ると風邪ひくぞ、とか(うたた寝の幸福感を知ってる?)
夜道を一人で散歩するのはやめなさい、とか

そういうこと言われると、カチンと来ちゃうけれど、
ときどきケンカになっちゃうけれど、

だけど、
速水さんの方が正しいことは、ホントはわかってるの。
だから、ごめんね。
少しづつ、がんばるね。





あたしはあなたのこんなところが好き。



疲れた顔で帰ってきても
あたしの顔を見て、にっこりとしてくれるところ。
なんでも美味しいといって食べてくれるところ。
ときどきもの凄く美味しいものを作ってくれるところ。
二人分のコーヒーを煎れてくれるところ。
動物モノのドキュメント映像を見て涙ぐむところ。(驚きました)
ソファに二人並んで映画を観てるとき、手を握ってくれるところ。
あたしの帰りの方が遅いときは
心配などしてないぞ、という顔で待っていてくれるところ。



心配した?
撮影のあと、スタッフの人達と軽く飲んでたの。

別に、してないよ。
仕事してれば、そういう日もあるだろ。

わ、理解あるね。さすが社長さんだ。

………なんだ?

いえいえ。着替えてきま〜す。
わっ!!!


腕を引っ張られて抱きしめられて身動きが取れなくなる。


死ぬほど心配した。
遅くなるときは連絡ぐらいよこせ。



自分が遅くなるときは連絡なんてしないクセに、わがまま…と思っても、心配されてしまったことが嬉しくて、わがままを許してしまう。ごめんなさい、なんて謝ることは悔しいけれど、心配したって言っている眼差しが真剣だから、やっぱり嬉しくなって、謝ってしまう。

ごめんなさい。

負けたっ……!!



そんなわけで。
困ったことに。
あたしはあなたの全部が好きなのです。


好きの気持ちを、一年に一度チョコレートに込めてみるのは、悪くないイベントだと思うよ。

きっと、速水さんは甘いものが苦手だから
あたしのあげたチョコレートを
きみにあげる、と言ってあたしにくれるね。
ひとつぐらい食べてよ、と言うと
にやりと笑って、ひとつぶ口に入れて
それからキスをするよ。
チョコレート味の蕩けるような甘いキスを。



ひとりのあたしと
ふたりのあたしたち。

嬉しいときは、たくさん嬉しいし
寂しいときは、あたためてくれるね。

一日の始まりと一日の終わりを
ふたりで過ごせることがとても幸せ。

速水さんと同じ時間を過ごしていけることが
とても幸せ。


来年のこの日も、
甘いキスをしていたい。

ぜいたくな望み

  …じゃないよね!?

ね。

速水さん。








fin




02.14.2005






あとがき




…まあ、なんだ…、その…
チョコレートのようなお話が書きたかったわけですが…(^^;;
1st anniversaryのトップ用のイラストを見て頂いた方が、それぞれ幸せな想像をしていただいたみたいで、それがとても嬉しくて、その幸せな想像のひとつをお借りして、そこからお話を作ってみました。






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